いざというときに慌てない!相続を受けるために必要な手続き

目次)
・相続対策の手順
1.財産をリストアップ
2.財産の分け方を決める
3.(生前)遺書など法的に有効な手段で残す
4.(死後)遺産分割協議書を作成し、財産の名義変更等をする
5.相続税を確認し必要であれば税理士と相談

・相続税の試算
早見表を元に試算を行い、多額の相続税がかかるようであれば税理士に相談して対策を

・相続放棄とは
そもそもの相続の権利がなかったことになる
相続を放棄したら他の親族に相続権が移る
借金だけなどの一部の放棄ができるわけではないので注意

マネ娘の両親が「相続の身辺整理」についてマネキンから教えてもらったことを聞いたマネ娘。相続を受ける側の自分にも何かできることはないか気になってきた様子。

マネ娘

パパとママ、すごい勉強になったって言ってたけど、相続を受ける私たちも何か準備や対策が必要だったりするのかなぁ?

マネ男

うーん。相続をめぐってきょうだいが仲違いするっていうのはたまに聞くけど、あれって膨大な資産がある場合だよね?僕たちにはそんなに関係なさそうだけど。

マネ娘

そうだよね。うちは残念ながら相続するような大きな財産はなさそうだし、相続対策なんて無縁なんだろうな〜。

マネキン

そんなことはないニャー!大事なことだから最初に言っておくけど、相続対策はどんな人にも必要ニャ!

マネ男

マネキンったら大げさだなぁ〜。うちも財産は大したことなさそうだし、きょうだいも仲良いし。みんなそれぞれお金にも困ってないし、欲もないから相続対策なんて要らないって!

マネキン

そうそう。こう言って、聞く耳を持たない人がたくさんいるニャン…。
他にも親に相続の問題を話すと「俺が死ぬのを待っているのか!」なんて言われたり…
でも、相続対策って誰にでも必要ニャ!!

親が亡くなって相続を受けるときに確認すべきことと手順

相続の準備をしないということは、残された家族にツケを回すことになります。

どういうことなのかを理解していただくために、自分の財産の相続対策として準備することと準備がされないまま相続を迎えたご家族がすることを比較してみましょう。

では、まず自分の財産を相続する際の手順をご紹介しましょう。

 

(相続対策の手順)
① 自分の財産をリストアップ
② ①をもとに、財産の分け方を考える
③ ②をもとに、家族と話し合い、分割方法を決める。それを遺言書などで法的に有効な形にする
④ ①をもとに、相続税がかかるかどうかの試算をする。かかるようなら、税理士に相談し納税資金の確保や節税対策を検討する

「うわ!なんだか面倒くさそう…」と思うかもしれませんが、これは相続対策せずに亡くなった人のご家族がする相続手続きとほぼ同じことなのです。
では、次に何の準備もしないまま相続になった場合に残されたご家族が行う相続手続きをご紹介しましょう。

(準備なしに相続したときの遺族のすること)
① 故人の財産をすべて探し出し、リストアップする
② 相続人全員で、どの財産をだれがもらうかを決める
③ 財産の分け方が決まったら、遺産分割協議書を作成し、財産の名義変更等をする
④ 並行して相続税がかかるかどうかを確認。かかるようなら、税理士を探して、死後10か月以内に相続税の申告及び納税を行う

比べてみると手順はほぼ同じだということがわかっていただけると思います。

マネキン

とはいっても、遺族がする場合には、財産の持ち主は亡くなってしまっているから、財産を探し出すのも、財産の分け方を決めるのも、持ち主不在の中で行うことになるニャ。

それに対して、相続対策は財産の持ち主本人が行うから、財産を探し出すのだって、分け方を決めるのだって、本人の意思でできるニャ。生前に本人が相続対策をしたか、しなかったか、どちらが大変かは一目瞭然だニャン。

しかも、相続税がかかるということになれば、相続対策している方が圧倒的に有利です。相続税は対策が効きやすい税金です。ちょっとした工夫で数百万~数千万程度の節税だって、不可能ではありません。

生前に相続税がかかることがわかれば、良い税理士を探し出し、相続税の納税対策や節税対策をすることで、投資でお金を増やすより効率よく相続後の手取りを増やすことだってできるのです。

つまり、相続対策をしないということは、面倒な手続きを家族に押し付け、相続後の手取りを減らしてしまう可能性もある、ということ。「相続対策はした方がいい!」というわけです。

マネキン

ちなみに、上記は大きな流れを説明してるニャ。細かな相続手続きについては、以下の表を参照にするニャン。

マネキン

上記以外にも、変更・解約が必要なクレジットカードや携帯電話、各種会員資格などは会費が自動的に引き落とされ続けることもあるので要確認ニャ。また、各種保険など名義変更が必要になるものも手続きが必要になってくるニャ。

マネ娘

うわー…思った以上にやらなきゃいけない手続きが多い。これは事前に整理しておかないとてんてこまいだ。

マネキン

その通りニャ。遺産相続や不動産の名義変更・登記については1人で行うのはとっても大変だから、弁護士、司法書士、土地家屋調査士等の専門家に相談してみるのがいいニャン。

気になる相続税の話。どのくらい税金ってかかるの?

マネ男

相続で気になることの1つが相続税だよね?どのくらいの遺産額から相続税がかかるのか、かかるとしたらいくらくらいの税金がかかるのか知りたい!

マネキン

その気持ちはわかるニャン。でも相続税の計算を自分でするのは大変なんだニャン!そこで、下記の相続税の早見表を利用するのが良いニャン。

この早見表は、「配偶者と子が相続人の場合」と「子だけが相続人の場合」で分けています。
というのも、配偶者は1億6千万円まで(もしくは法定相続分まで※1)財産をもらっても相続税がかからないからです(配偶者控除といいます)。
また、「配偶者と子が相続人の場合」では、配偶者は法定相続分で財産を受け取ると相続税がかからないため、表内に記載しておりません。
※1 法定相続分:民法によって決められた遺産の相続割合のこと。例えば子ども1人の場合は1/2。遺産が4億の場合は2億まで相続税はかかりません。詳しくはこちらをご覧ください。
また、法定相続分通りに相続し、配偶者は配偶者控除を使った場合を前提に作っています。

マネキン

子どもの人数が多ければ多いほど金額が安くなってるけど、これは子ども全員分の金額ニャ。金額×人数分が合計ってわけじゃないから安心するニャ。

相続税には基礎控除と言って、3,000万円+600万×法定相続人の数の金額が相続する財産から控除されるので、相続人が1人の場合は3,600万円までは相続税がかからず、相続人がふたり(例えば配偶者と子ども1人)の場合は4,200万円までは相続税はかかりません。

マネ男

結構大きい金額から相続税が発生するんだね。

マネキン

2019年のデータによると相続税が課された人の割合は全体の8.3%だったニャ。9割以上の人は相続税を支払う対象ではないニャ。

マネ娘

そうなんだ!ちょっと安心かも。

相続放棄はどんな時にできる?すべき?

相続税が発生するほど、たくさんの財産をもらえればいいのですが、時には借金をたくさん相続してしまうという不幸な相続人の方もいます。そんなときに利用できるのが、「相続放棄」という手続きです。

マネキン

「相続放棄」とは、相続で財産をもらうことを放棄する手続きのことニャ。相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に申し立てをして手続きをするニャン。

ここで気を付けたいのは、相続放棄をした人は、そもそも相続人ではなかったことになるという点です。例えば子どもが相続放棄をすると、そもそも相続人としての子どもがいなかったことになり、相続権が第二順位の親や第三順位の兄弟姉妹に移ってしまうのです。

マネ娘

ってことは、たとえば、父親が多額の借金を残して亡くなり、その子ども全員が相続放棄をした場合、亡くなった父親の両親や兄弟姉妹が相続人になって、その借金を相続するってこと?それはあまりにもひどい話ね…。

マネキン

そういった場合は、相続人となってしまう人たちにも、「借金があるから、相続放棄をするように」と伝えてあげることが大事ニャ。

たまに「父の財産はすべて母親に相続させたいので、子ども全員相続を放棄します!」という心優しい方のお話を聞くことがありますが、この場合は相続放棄の手続きはとってはいけません。

母親のためと思って、子ども全員で相続放棄をしてしまったら相続権が他の人に移ってしまうだけです。
母親のために相続放棄をしたら、母親が亡き父の両親や兄弟姉妹と遺産分けの話し合いをしなければならなくなる、なんてことになってしまうのです。

この場合は、遺産分割協議(遺産の分け方の話し合いの中)で、「母親がすべて相続する」と決めればいいだけの事です。

マネキン

相続放棄をするということは、相続する権利を完全に手放すということニャ。たとえば夫が亡くなって相続放棄をした妻は、住んでいる家や預金など夫名義の財産はすべて手放さなければいけないということニャ。

マネ娘

そんなことになったら大変!!

マネキン

そんな不幸を防ぐため、事業などで多額の借金があるという方には、生命保険の活用をおすすめするニャン!

生命保険は、相続放棄をしても受け取ることができます。この生命保険で借金を返済しても良いですし、相続放棄をして、生命保険で生活を立て直すというのでも良いでしょう。転ばぬ先の杖、として是非検討してください。

マネ男

こういったことも含めて、大切な家族を守るために必要なのが相続対策ってことなんだね。

マネキン

相続対策は、思い立ったが吉日ニャ。

なんのきっかけもなく、「常に相続のことを考えている」という方はめったにいないでしょう。この記事を読んで、「相続対策したほうがいいのかな」と思っていただいた方は、これをきっかけに相続対策をスタートしてみてください。

マネキン

相続対策の最初の一歩は、「財産のリストアップ」ニャ!ちょっと面倒くさいかもしれないけど、市販のエンディングノートなどを使って、できるところから手を付けてみるニャ!

※エンディングノートについてはこちらでも解説しています。

マネ娘

パパとママにも相続対策してほしいけどちょっと、死を前提としているみたいで話しにくいな…

マネキン

でも相続対策は元気なうちに始めないと、なかなかできるものじゃないニャン。
だから、「パパ・ママ、相続対策しといてよ」と丸投げしないで、「パパやママの老後のことを一緒に考えたい」というような話題をスタートにして、家族で力を合わせて対策していくことをおすすめするニャン。

マネ男

相続や老後のことを考えるために、家族のコミュニケーションが深まれば、良い相続対策ができそうだね。

マネ娘

これをきっかけにマネ男のご両親ともちゃんと話しておかなきゃね!

マネ男

さすがマネ娘!頼りになるな~!

 


板倉 京(いたくら みやこ)
シニアマネーコンサルタント・税理士・IFA
保険会社勤務の後、いったん専業主婦になるも、一念発起して、税理士資格を取得。大手会計事務所、財産コンサルティング会社勤務などを経て、2005年に税理士事務所を開業。女性税理士の組織 、株式会社ウーマン・タックス代表、資産コンサルティング会社である株式会社WTパートナーズ代表を勤める。相続や資産運用に詳しい税理士として、シニアのクライアントを多く抱え、年間100人以上の相談を受ける。また、一児の母でもあり、実生活に根差した視点とわかりやすい解説から、テレビや雑誌などでも人気。「あさイチ 」、「大下容子ワイド! スクランブル」などのテレビ出演や、全国での講演も多い。著書に「夫に読ませたくない相続の教科書」(文春新書)、「税理士がアドバイスする! ! 相続手続で困らないエンディングノート」(ぎょうせい)などがある。